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月姫 予告用あらすじ


初めに。

私立高校の二年生である遠野志貴は、人より少しだけ特別
な力があった。
それはおそらく、他の誰も持っていない超能力。
物を曲げたりする、そういった直接的な能力ではない。
子供のころ、事故で死にかけたことのある志貴は蘇生して
からというもの、物の「死」を見てしまうようになっていたのだ。
どんな物体、どんな生物にも壊れやすい一点、そこをなぞ
れば「殺して」しまう線というモノがある。
志貴の両目は、そういった概念でしかないモノを捉えられ
るようになっていた。
けれど、それが特別なことかといえば、実はあまりたいし
たことでもなかった。
ただ「死」が見えてしまうだけの志貴の体質は、幽霊が見れ
るといった程度のものでしかない。
むしろ、そういった『他人とは違う自分だけの固有の才能』
というものは誰にだってそなわっているもので、自分のこん
な体質もじっさいは珍しいものじゃないと思う―――。
そんな楽観をしたまま、志貴はぼんやりとした学園生活を
おくっていた。

 十一月、秋。
いままで養子あつかいで親戚の家にあずけられていた志
貴は、五年ぶりに本家である遠野の屋敷に舞い戻ることとな
った。
自分を嫌っていた父が病死し、五年前にわかれたきりの妹
が遠野の家を継いだため、志貴は屋敷に戻れるのだという。
いまさら遠野の家に戻る気のない志貴だが、妹である秋葉
が屋敷に一人きりと聞いては断ることはできない。
志貴は五年ぶりに遠野の屋敷に戻ることとなる。

自分が十二歳のころにわかれた家と妹。
死にかけるほどの事故をおこしてしまった、もう記憶にも
残っていない古い屋敷へ。

思えば、それが物語の発端だった。

 十一月、秋。
その日はよく晴れた日曜日。
夏の面影を濃くのこした日中で、志貴は街を歩くひとりの女
性をみかけた。
それは白い服をきた、一人の金髪の少女。
彼女を見た瞬間、志貴は目の前がくらくらとゆれて、まとも
に立っていられなくなった。
のどは乾いて呼吸さえ困難になるし、砂漠になげこまれたみたいに
体じゅうが汗ばんでいく。
一目惚れだとしても、それは明らかに異常な感覚だったろう。
白い女性は颯爽と歩いていく。
気がつけば志貴は彼女のあとを尾行してしまっていた。

本当に、理由はわからない。


遠野志貴はそういう性癖を持つ男の子ではなかったし、殺
してしまった後でさえそんな事をしてしまった理由はわから
なかった。

ただ、事実としてあるのは見知らぬ女性のアパートにいる
自分と、床に散らばった女性の死体だった、
尾行のはてに彼女の家の呼び鈴をおして中に押し入り、あ
まつさえ殺してしまうなんて、志貴にはそんな趣味はない。
死体を前にしても、コレはなにか現実味のない白昼夢のようで落ち着かない。
ただひとつリアルなのは彼女をバラバラにした方法が、自
分が幼いころから持っていた「死」を見るという能力で。
それだけが現実味のある出来事であり、それこそが現実味の
ない手段だったのだ。

わけもわからず志貴は遠野の屋敷へと逃げかえる。
自分でも、あれが現実だったのか夢だったのか判別がつ
かないままに。

けれど、それが物語の始まりだった。

翌日。
眠れないまま登校する志貴は、愕然といつもの登校路で立
ち止まった。
交差点のさきのガードレール。
そこに、まるで恋人を待つようなそわそわした物腰で白い
服装の女性が待っていた。
女性は志貴と目があうとにこりと微笑んで、つかつかと歩
いてくる。
それは紛れもなく、昨日殺してしまったはずのあの女性だった。

笑顔で歩み寄ってくる女性。
彼女はまぎれもなく自分自身を目指してやってくる。
立ちつくす志貴の脳裏には、昨夜の光景だけが渦巻いていた。
バラバラに散らばる女の屍体。
足元に侵食してくる赤い海のような流血。
…それは間違いなく現実で。
自分は、彼女を確実に、これ以上ないぐらい惨殺したのに。
「こんにちは」
交差点のむこうで彼女はそう囁いたように見えた。

志貴は、何も考えられず、ただその場から走り出していた。


逃げる志貴を彼女はおいかけてくる。
心臓が口から吐き出されそうなほど全力で志貴が走っても、
彼女は軽やかな足取りで追いついてきた。
やがて路地裏に追いつめられた志貴は、そこで彼女の正体を
知らされた。
女性の名はアルクェイドといい、吸血鬼と呼ばれる不死の生物
だという。
笑い飛ばせる彼女の話は、実際に「生きている」姿を目の当たり
にした志貴には笑い飛ばせるものではなかった。

「わたしを殺した責任、とってくれるんでしょ?」

少女の姿をした吸血鬼は志貴を見てにこりと微笑む。
アルクェイドは志貴に復讐するつもりなどなく、むしろその能力を
評価していた。
過去においていかなる手段をもってしても殺されなかった自分を一瞬
にしてバラした人間。その力があるのなら、彼女が長く処刑できずに
いた同族を殺せるのではないか、と期待して。

笑顔で手をさしのべる白い少女。
断れば自分の命が危ういと直感した志貴は、イヤイヤながらに彼女の手を
握り返す。
これからまっている非現実な生活と、
直視したくなかった自分の力と向きあわなくてはならない事に、
憂鬱なため息をこぼしながら。


SceneImage


―――以下、本編。


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